当相談室で大切にしていること

 

 効率よく手軽で便利なものを良しとする風潮は、いつの時代においてもありました。ここ数年のコロナ過の状況では、様々な分野でオンライン化が進み、医療・教育・福祉においてもオンラインの活用が普及しつつあります。現在は人工知能(AI)も急速に発展しており、カウンセリングにAIを導入しようとする試みも始まっています。


 その一方で、コロナ過の状況では、誰かと会って話をすることの貴重さや、画面越しではなく実際に向き合って場を共にすることのかけがえのなさを、誰もが少なからず感じたのではないでしょうか。すべてがオンラインやAIで完結する訳ではなく、むしろそれらが普及し始めている今だからこそ、「共に居る」ことの意味が見直されていると思います。


  前置きが長くなってしまいましたが、当相談室では、「短期間で効率よく、手軽で便利に」という物差しをいったん脇に置いて、まずはゆっくりと対話をする中で、共に考え、共に思いめぐらせ、共になにかに気づく、という体験を大切にします。

 

 もちろん、臨床心理士としての専門的立場から助言や提案をすることはありますが、「次からはこうしてみましょう」、「今はまずこれをしてください」と、こちらから具体的な指示を出すことは余程のことがない限りありません。(もしあったとしても、そこで相談者がなにを思い、考えたのかを重視します。)

 

 それはなぜかというと、専門家の意見、あるいはAIのように統計的に有意な見解が絶対的に有効で正しいということではなく、相談者ご自身が主体的に悩み、考え、思い至る、というプロセスそのものに意味があると考えるからです。

 

 それは必ずしも容易なことではなく、一筋縄ではいかない場合もあるかもしれません。けれども、そこで確かめられた思いや得られた実感は、現在直面している事柄だけでなく、これからの生活においても一つの支えになりえる、と私自身は考えています。